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MXPA10「素ヤリス」向けクラッチ開発ストーリー(Episode 1–4 総集編)

― “ペダル違和感”から始まった試作開発が、競技で使える領域へ近づくまで

MXPA10型、通称「素ヤリス」向けに専用クラッチの開発をスタートしました。
本記事は、エピソード1〜4で積み上げてきた内容を、一本の開発ストーリーとして再構成した総集編です。
試作品開発で起こりがちな「違和感 → 再分解 → 切り分け → 改善 → 再評価」という流れを、現場視点でまとめます。


0. 開発の出発点:いったん組めたのに“違和感”が残る(Episode 1)

最初の組み付けは、各部をチェックしながら進めました。一見すると成立している。
しかし、実際にペダルを踏んだ瞬間に残ったのは、強い違和感でした。

「このまま走らせるのは危険」
そう判断してミッションを降ろし、クラッチを再度分解。クラッチ板だけでなく、ダイヤフラムスプリングの高さなども含めて再確認を開始します。

ここで改めて突き付けられたのが、試作開発の鉄則です。

“多分大丈夫”は試作品では通用しない。
厚み・ストローク・作動量を測定で数値化し、純正と比較して判断する。

図面と現物の一致確認、ノーマルとの比較測定、前提(オフセット)があるなら整合性検証。
この基本が抜けると、試作は高確率で深い沼に入ります。


1. 危険の匂い:ミッションとエンジンを“締め込んだ”可能性(Episode 1)

切り分けの中で特に危険度が高かったサインがありました。

  • ミッション搭載時、エンジンとミッションの間に隙間が残る

  • ノックピン周りが固く、結果としてボルトで締め込んだ可能性

  • さらに短時間エンジンを回しただけで、間から煙が出た

この状況は「即停止・冷却・分解確認」が正解です。
クラッチセンターが出ていれば、基本は押し込むだけで密着していく。
無理に締め込むと、異常なプリロードがかかり、作動不良や焼き付き・損傷につながりやすい。

また、原因候補としては

  • ベアリング違い

  • スリーブの入り不足

  • 設計オフセット(スペーサ+10mm/ダイヤフラム位置-10mmなど)と組付け状態の不整合
    が挙がりました。

ただ、画像比較等では「ベアリング自体は同じに見える」確認も入り、
単体OKでも組付け状態で破綻する可能性が残る、という“試作あるある”がここで顔を出します。


2. 不具合の正体:レリーズベアリング本体ではなく、設計意図の“伝達漏れ”(Episode 2)

検証を進めて判明した結論は明確でした。

原因は「レリーズベアリングの不具合」と整理できる。
ただしそれは、本体の品質不良ではない

実際に起きていたのは、
レリーズベアリングに装着されている部品とクラッチ板が設計上干渉していたこと。
そして、根本は技術難易度よりも“情報共有の不足”でした。

  • 開発側:その部品は外して組む前提

  • 取り付け側:外す必要があると伝わっていない → 部品が残った状態で組付け

この前提ズレが、干渉・症状として現れたわけです。
試作開発では、こうした伝達漏れが「再分解・再作業・再検証」のロスを生み、時間を溶かします。

対策はシンプル。
意図を手順に落とし込み、必要な処置を行い、丁寧に組み付ける。
その結果、クラッチは問題なく装着でき、組付けとして成立しました。


3. サーキットでは見えない。街乗りで浮き彫りになる“曖昧なミート感”(Episode 3)

組付け課題をクリアし、いよいよ「フィーリング評価」へ。

まずはサーキット走行。周回は約40周。
ドライバーからの一次フィードバックは「違和感なし」。

しかし、ジムカーナテストのため岡山へ車両を移動し、街中で乗った瞬間に状況が一変します。

  • ペダル踏力が驚くほど軽い

  • なのに、ミートのタイミングが非常に曖昧

  • つなげにくく、特に坂道発進が難しい

「繋がっているのか/滑っているのか」が読み取りづらい。
自分で乗ると、乗りにくいだけでなく「滑っている感じ」さえありました。

興味深いのは、サーキット同行メカニックに確認しても
「当時ドライバーはその指摘をしていない」こと。

つまり、高負荷・高回転の領域では目立たず、低速・発進・半クラ領域で症状が顕在化するタイプだったわけです。
その後のなださきでの走行テストでは、曖昧さだけでなく“滑りの兆候”を強く感じ、街中での違和感が間違いではないと確信。

この内容をメーカーへフィードバックし、改善提案を正式に依頼しました。


4. 改善:ダイアフラムスプリング変更で“滑り感”は改善(Episode 4)

試走で得られたデータをもとに改善点を検討した結果、
対策はダイアフラムスプリング変更へ。

またミッションを下ろし、クラッチを分解し、ディスク当たり面などを確認。
新しいクラッチカバー(変更仕様)を取り付け、再テストへ。

この時点で、当初の認識は
「滑っている感じがする=ミート時の問題が多い」でした。
ただし、後になってここが迷いのポイントにもなるのですが、結果としては大きな前進が得られました。

  • 「滑っている感じがある」というフィーリングは改善

  • ただし、ミートのタイミングの曖昧さは完全には消えない

さらに研究・検討を重ねた結果、ミート時のフィーリングの悪さも改善。
なださきパークでの再試走では、

  • ミートのタイミングが改善

  • つながり/滑りの不安が改善

  • 競技用として使える完成形に近づいた

驚いたのは、乗りやすさ。
「ノーマルクラッチか?」と思えるほど自然で、ミートもしやすいフィーリングでした。

そしてもう一つ重要な発見があります。
500km、1000kmと走るにつれ、フィーリングが変化し、
どんどん“カツッと繋がる”方向へ育っていく感触が確認できました。


まとめ:試作開発は「測定」と「伝達」と「評価領域」で決まる

この開発ストーリーで得られた学びは、技術要素だけではありません。

  • 測定で判断する(“多分”を排除する)

  • 設計意図を手順として伝える(前提ズレを潰す)

  • 評価領域を分ける(サーキットだけでは見えない症状がある)

  • 改善は部品単体ではなく、システムとして効かせる(カバー/スプリング/組付け条件)

クラッチは短距離テストだけでは結論が出ません。
今後も試走を重ね、距離・温度・使い方の条件を変えながら、経過を追っていきます。

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