不具合の正体は「レリーズベアリング本体」ではなく、設計意図の“伝達漏れ”だった
前回のエピソードでは、MXPA10(いわゆる素ヤリス)向けクラッチ開発で発生した違和感と、再分解に至った経緯をまとめました。
今回は、その後の検証で原因が確定し、解決に至った内容を共有します。
結論から言うと、原因は「レリーズベアリングの不具合」と整理できます。
ただし、ここで言う“不具合”は レリーズベアリング本体の品質不良ではありません。
実際に起きていたのは、レリーズベアリングに装着されている“ある部品”と、クラッチ板が設計上干渉していたという、組付け状態での問題でした。
1. 原因:レリーズベアリング周辺の“設計上の干渉”
検証を進める中で判明したのは、次の事実です。
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レリーズベアリング本体が悪いわけではない
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レリーズベアリングに装着されている部品が残った状態だと
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クラッチ板と干渉し、正常な作動を阻害する
つまり、部品単体の良否ではなく、取り付け状態の前提がズレていたことが原因でした。
2. 本質的な問題:設計者と取り付け側の意思疎通不足
今回のトラブルの核心は、技術的な難易度そのものよりも、情報共有の不足にありました。
開発側(設計者)の前提:
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「その部品は外した状態で組む」ことが前提
取り付け側(メカニック)の認識:
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「外す必要がある」と聞いていない
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そのため部品は装着されたまま組み付けた
この“前提の食い違い”が、干渉を生み、症状として現れたわけです。
3. 伝達漏れが生むロスは、想像以上に大きい
試作開発では、ほんの小さな認識差が、結果として大きな時間損失につながります。
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組付け → 違和感 → 再分解 → 切り分け
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本来不要だった確認や作業が増える
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作業者・開発者双方の工数が奪われる
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さらに最悪の場合、部品やユニットにダメージが入る
今回のように「設計意図の伝達が行われていない状態」は、技術課題以前に、プロジェクト全体の効率を落とす最大要因になり得ます。
4. 対策:意図を“手順”に落とし込み、丁寧に組む
原因が明確になった後は、やるべきことはシンプルでした。
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問題となった部品を、開発意図どおりに処置(外す/変更)
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組み付け手順を明確にし、丁寧に組む
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最終的にクラッチ作動をチェック
その結果、クラッチは問題なく装着でき、組付けとして成立しました。
少なくとも「装着できない」「異常な干渉が出る」といったフェーズはクリアできています。
5. 次回予告:フィーリングはエピソード3で
今回のエピソード2は、あくまで「不具合の原因特定と解消」まで。
肝心のクラッチフィーリング(つながり方、ペダルの重さ、操作感、扱いやすさ)については、次回 エピソード3 で詳しくお伝えします。
まとめ
今回のトラブルは、レリーズベアリング“そのもの”の問題ではなく、
レリーズベアリング周辺部品とクラッチ板の設計上の干渉、そしてそれを生んだ 設計意図の伝達漏れ が原因でした。
試作開発では、部品精度や設計だけでなく、
「取り付け側が同じ前提で作業できる状態」を作ることが、成功の必須条件です。
次回は、実走・実操作で見えてくるクラッチのフィーリングをまとめます。