EP1 : MXPA10「素ヤリス」向けクラッチ開発

2025.12.29

― 試作品フェーズで起きた“ペダル違和感”からの切り分け記録

MXPA10型、いわゆる「素ヤリス」と呼ばれる車両に向けて、専用クラッチの開発をスタートしました。
今回は、組み付け後に発生したペダルストロークの違和感を起点に、ミッション再分解・再確認へ進んだ一連の流れを、「試作品開発で絶対に外せない考え方」として整理します。


開発の出発点:いったん組めたのに“違和感”が残る

当初は各部をチェックしながら組み付けを行い、一見すると成立しているように見えました。
しかし、実際にペダルを踏んだ感触に違和感があり、**「このまま走らせるのは危険」**と判断して、ミッションを降ろし再度クラッチをバラして確認することにしました。

再分解後、クラッチ板の状態だけでなく、ダイヤフラムスプリングの高さなども含めて、チェックを進めます。


試作品に「たぶん大丈夫」は通用しない

開発の現場で強く再確認したのが次の一点です。

「多分大丈夫」という感覚判断は、試作品には通用しない。
厚み・ストローク・作動量を、測定器具で数値化し、ノーマル(純正)と比較して判断する。

図面を受け取って現物確認を行い、仕様と実物が一致しているかを“数字で”潰す。
試作開発では、ここを飛ばすと高確率で深い沼に入ります。


現象の切り分け:まず「クラッチが異常」前提で疑う

現状の症状からは、まずクラッチシステム側に異常がある前提で切り分けを進めました。

1) 今しか確認できない“作動量”のチェック

最初の提案として出たのが、レリーズ側の作動量(押し出し量)を最低側に寄せて挙動を確認する方法です。
※ここでいう“最低側”は、ブリーダー解放などの操作で作動状態を変えられる可能性がある、という趣旨の切り分けです。

この確認は、状態によっては「後からでは確認できない項目」になりやすく、試作トラブルの初動として有効です。


危険サイン:ミッションとエンジンを“締め込んだ”可能性

やり取りの中で特に危険度が高かったのがここです。

  • ミッション搭載時、エンジンとミッションの間に隙間が残る

  • ノックピン周りが固く、結果としてボルトで締め込んだ可能性

  • その後、短時間エンジンを回しただけでエンジンとミッションの間から煙が出た

この状況は、開発・整備どちらの視点でも「即停止・冷却・分解確認」が正解です。
実際、判断としても 「もうエンジンはかけないで、冷えてから分解」 という方向に揃えました。

なぜ危険か(要点)

  • クラッチセンターが正しく出ていれば、基本は押し込むだけで密着していく

  • 無理に締め込むと、クラッチやレリーズ周りに異常なプリロードがかかり、作動不良や摩擦・焼き付き・損傷の原因になる

  • その結果として「踏んだままのような感触」「煙」「異音」などにつながりやすい


疑ったポイント:ベアリング違い/スリーブの入り/寸法設計の整合

トラブル要因として、以下の仮説が挙がりました。

  • 交換したレリーズベアリングが別車種の可能性

  • 付属スリーブの寸法が想定と違う、またはスリーブへの差し込みが不完全

  • 設計上、ベアリング側に+10mmスペーサ、クラッチ側がダイヤフラム位置を純正比-10mmに合わせている…などの設計意図がある(=組み付け状態で整合している必要がある)

その後、画像比較等により ベアリング自体は同一に見えるという確認も入りました。
つまり、部品単体が同じでも、組付け状態(入り量・当たり・位置関係)で破綻している可能性が残ります。


一旦の判断:純正に戻して車両を動かす

開発は重要ですが、まず車両が動かないと検証が進みません。
そこで、いったん純正クラッチへ戻し、車両を復帰させたうえで、改めて現物確認・寸法確認を進める方針になりました。

試作開発ではよくある判断ですが、これは「後退」ではなく、検証の土台を整える前進です。


今回の学び:試作クラッチ開発の“最低限チェックリスト”

同じ沼を避けるため、要点をチェックリスト化します。

A. 組付け前(机上+現物)

  • 図面と現物の一致確認(厚み・全長・当たり面)

  • 純正との比較測定(クラッチ板、カバー、レリーズ、スリーブ、スペーサ)

  • ダイヤフラム高さ/位置関係の前提整理(純正比のオフセットがあるなら必ず検証)

B. 搭載時(ここで事故る)

  • クラッチセンター確認(センター出し治具・手順)

  • エンジン×ミッションは「押して密着」が基本

  • 隙間が消えない場合、締め込まない(原因を潰すまで停止)

C. 症状発生時(やってはいけない)

  • 煙・異音が出たらエンジンは回さない

  • 冷却後に分解して、当たり・焼け・粉・偏摩耗を確認

  • “今しか確認できない作動量”を優先して切り分け


次にやるべきこと(開発としての最短ルート)

  • スリーブの挿入量/カラーの入り量を、現物で確定

  • ベアリング作動量(押し出し量)の実測と純正比較

  • ダイヤフラム位置オフセット(-10mm等)の整合を、組付け状態で数値検証

  • 再組付け時は「締め込まずに密着」の原則を守り、違和感が出たら即停止


まとめ

今回の件は、試作品開発で最も起きがちな「寸法の小さなズレが、組付け状態で大きな不具合として顕在化する」典型でした。
そして何より重要なのは、感覚ではなく測定で判断すること、そして搭載時に「無理に締め込まない」ことです。

この切り分け記録が、同じ車種・同じ領域で開発に挑む方の“事故防止”に繋がれば幸いです。

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